飲み込む

【のみこむ】動詞

同義語

同品詞の類義語

呑み込む文芸的
嚥下する

類義句

同品詞の慣用的言い換え

喉奥まで流し込むcolloquial
奥まで受け入れる文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

水流のように文芸的
喉の奥深くまで

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

奥深く
一気にcolloquial

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

包み込む文芸的
受け入れる

体言的言い換え

用言を体言に変換

奥への旅文芸的
歓喜の溺れ文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

奥底まで満たす文芸的
喉を潤すcolloquial

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伏字は語数を残す——留められた語の会計

戦前に刊行された小説には、本文の途中に「××」や「○○」が並ぶ頁があります。検閲を見越して、出版社や著者があらかじめ伏せた箇所です。読者はそこに語がないことを見ますが、同時に、語があったことも見ています。削除であれば行そのものが消えるのに対し、伏字は字数ぶんの記号を残すため、消えた語の長さが紙面に残ります。数えようとする視線が生じる分、本文の速度はそこで落ちます。留められた語が、体の外から数えられる状態で置かれている——この奇妙な保存の仕方が、検閲下の文学に固有の技法を育てました。

日本語のこの複合動詞は、三つの方向へ伸びています。嚥下そのものを指す用法、理解することを指す用法、そして言いかけた語をやめることを指す用法です。三つ目は、口に入った物ではなく、まだ口から出ていない語を対象に取る点で特異です。英語で swallow one's words と言えば、前に述べたことを取り消す意味になり、日本語の「言葉を飲み込む」とは向きが逆になります。取り消すのは発話のあとであり、飲み込むのは発話の前です。同じ嚥下の比喩を使いながら、時間軸の置き場所が違っています。

検閲を前提とする性愛文学は、この三つ目の用法を紙面の技術へ変えました。書かずに済ませ、しかし書かなかったことは読者に知らせる。伏字、場面の途中での転換、視点人物を部屋の外へ出す省略——いずれも、語を内側に留めたまま輪郭だけを渡す方法です。戦前の出版法のもとでは、内務省が発売頒布禁止の処分を出す権限を持っていました。処分を受ければ刷り上がった商品ごと失われますから、出版社は事前に自分の側で削るほうを選びます。どこまで残すかという判断が、著者でも当局でもなく、その中間にいる者の手で下される事態になったわけです。

紙面の記号には、もう一種類あります。近代小説で場面の切れ目に置かれるようになった三点のつらなりは、伏字と違って、消えた語の量を教えません。伏せたのか、もともと言葉にならなかったのかも判別できず、読者は長さの手がかりを与えられないまま次の行へ渡されます。伏字が留めた語の会計を残すのに対し、こちらは会計ごと消してしまう記号です。検閲の下にいた書き手が伏字を選んだのは、規制に従いながら、留めた量だけは読者へ渡そうとしたからでしょう。

翻訳された官能には、さらに一段の飲み込みが挟まります。訳者は原文の語を読み、日本語へ置き換える途中で、置き換えきれない語をいったん自分のなかに留めます。近代の翻訳では、性に関わる箇所を要約へ切り替える、比喩に置き換える、注へ逃がすといった処理が繰り返されました。本文から消えた語が頁の下に小さく残る場合、注釈欄は飲み込んだ語の置き場所として都合のよい器になります。原文と訳文を並べれば、その差分は訳者が留めた量として数えられます。

この動詞が保存を含意することは、書き手にとって重要です。吐き捨てる、握りつぶす、といった語であれば、対象はその時点で失われます。飲み込むと書けば、対象は消えずに人物の内側にあり、いつか出てくる可能性を残したまま場面が進みます。伏字が字数ぶんの記号を残したのと同じで、語られなかった量は、あとで回収するための残高になります。人物に一語を飲み込ませるなら、その残高を作者の側で覚えておくほうが、後の場面は動きやすくなります。

文: hakadoru.ai 編集部

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