啜る

【すする】動詞

同義語

同品詞の類義語

吸う
貪る文芸的
味わう

類義句

同品詞の慣用的言い換え

渇いた喉を潤す文芸的
舌を這わせる

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

蛇が獲物を飲み込むように文芸的
熱いお茶を啜るように

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

夢中で

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

口づけする文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

熱い交わり文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

淫らに文芸的
濃厚に

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書けば聴こえる——対象ではなく音を括った動詞

「すすり泣く」という複合が成り立っている事実は、この動詞の性格をよく示しています。泣くことと、液体を口へ引き入れることが、ひとつの語のなかで結ばれています。鼻を啜る、茶を啜る、麺を啜る——並べたときに共通しているのは、口に入るものの側ではなく、そこで生じる音のほうです。対象が何であれ、細く長く引き込む動作には同じ響きが伴います。

日本語の摂取動詞を見渡すと、音を含意するものはそう多くありません。「飲む」は無音で行えますし、「吸う」も静かに済ませられます。この語だけが、行為の記述そのものに音を組み込んでいます。読みは す・す・る の三拍で、同じ音節が二度続く形です。反復する音形が、細く長く引き入れる動作の反復性と重なっている——擬音語ではないのに擬音語に近い手触りを持つのは、この音形のためでもあるでしょう。作者は擬音を並べる必要がなく、動詞ひとつで読者の聴覚を起動できます。

他の言語と並べると、日本語の括り方の癖が見えます。英語は、茶をすする動作、鼻をすする動作、麺を音を立てて吸い込む動作に、それぞれ別の語を用意しています。対象と作法によって語が分かれるわけです。日本語のほうは、対象がいくら変わっても動詞を替えません。替わらないということは、この語が括っているのが対象の側ではないということでもあります。括られているのは、細く長く引き入れるときに口が作る形と、そこから出る音のほうです。

音だけで場面を立てる技術は、書かれた文章より話芸のほうが長く磨いてきました。落語で蕎麦を食べる場面には、実物の器も麺もありません。扇子を箸に見立て、あとは口の立てる音と喉の動きだけで、観客の前に一杯を出してみせます。見えていないものを聴覚から立ち上げるという手続きで、書かれた二文字が読者の耳を起動するのと構造は変わりません。演者は蕎麦の温度も汁の濃さも説明せず、音の質だけを差し出して、あとは受け手に任せます。

日本文学・芸能研究者ローリー・ブラウは、落語を、演じられる笑いと文化的継承の両面から研究し、自ら英語でも演じてきました。話芸では、器や麺を実際に置かず、扇子、口の音、喉の動きだけで一杯を立ち上げます。聞き手は断片を受け取り、自分の食べた記憶から温度や量を補う。書かれた文章でも、動詞が音を起動すれば、対象を細部まで並べる必要はありません。省略は情報不足ではなく、受け手の身体記憶へ場面の仕上げを渡す分業になります。

音は現物を持ちません。頁の上には二文字があるだけで、そこから何が聴こえるかは読者の記憶に委ねられています。茶の湯には、濃茶を飲み終える際に最後をわずかに音を立てて吸い切るという作法が伝えられており、そこでは音が終わりの合図として機能します。同じ響きが、場を移せば無作法とみなされます。啜る音を退けたい社会と、麺の場合に限って許容する社会が併存していることも、この動詞自体が評価を含んでいないことを示しています。動詞が保証するのは音が鳴ったという事実だけで、その意味づけは受け手の側に残されたままです。

文: hakadoru.ai 編集部

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