噛む

【かむ】動詞

同義語

同品詞の類義語

食む文芸的
啄む文芸的
齧る

類義句

同品詞の慣用的言い換え

歯を立てる
喰らうcolloquial

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

獣のように文芸的
野生の獣のように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

夢中で
激しく

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

愛撫する
貪る

体言的言い換え

用言を体言に変換

口づけ
情熱の交わり文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

激しく求める
貪欲に愛撫する

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集計欄のない動作——分類が現象の輪郭を作る

歯の並びは一人ひとり違い、治療の跡まで含めれば個体差は相当に大きくなります。身元の確認に歯科所見が使われるのは、そのためです。歯を立てるという動作は、意図とは無関係に痕跡を残し、しかもその痕跡が誰のものかを指し示します。身体に触れる行為のなかで、これほど記録性の高いものは多くありません。触れた事実そのものが、時間差をおいて読み取れる形で残ってしまいます。

もっとも、痕跡が残ることと、その行為が数えられることは別の問題です。性に関する大規模な質問紙調査は、回答者に何を尋ねるかを決めた時点で、結果の輪郭をほとんど決めてしまいます。選択肢に無い行為は、頻度ゼロとして集計されるのではなく、そもそも数えられません。歯を立てる動作は、攻撃の記述として読めば被害の項目へ入り、接触の記述として読めば愛撫の一種に数えられます。同じ動作が、力の強さでも部位でもなく、調査者が置いた見出しによって別の欄へ振り分けられる——分類が現象を写し取るのではなく、分類のほうが現象の輪郭を作ります。回答者の側にも望ましいと感じる答えへ寄る傾向が働きますから、境界的な項目ほど数値は揺れます。

日本語のこの動詞は、分類しにくさを語の内部に抱えています。歯車が噛む、話が噛み合う、企画に一枚噛む、台詞を噛む。いずれも歯とは無関係な用法です。共通しているのは、二つのものが凹凸で組み合う像であって、傷つける像ではありません。むしろ協調を指すのが「噛み合う」で、失敗を指すのは「噛み合わない」のほうです。歯を立てる動作が両義的であることは、比喩の側でも同じ構造として保たれていると考えられます。

文法の側にも、評価を決めてしまう仕掛けがあります。この動詞を受身にすると、ほとんどの場合、被害の記述に変わります。噛まれた、と書けば、読者は加害と負傷を読み取り、遊びの場面だと理解させるには別の語を足さなければなりません。能動形は中立でいられるのに、受身形になった途端に評価が固定される——動作の意味が、態の選択によって片側へ倒れます。調査票の見出しが集計の欄を決めるように、文法の形式もまた、読者にとっての分類を先に決めてしまいます。

表記にも揺れが残ります。この語に当てる漢字は常用漢字表に入っておらず、新聞や教科書では平仮名で書かれます。しかも字体が二つあり、正字の「嚙」と、それを簡略にした「噛」が、文字コードの上で別の符号を与えられています。同じ語を書くのに二つの字が並存し、どちらも公式の表には載らない——印刷物ごとに姿の変わる語です。仮名で書けば揺れは消えますが、代わりに咬合や咬傷といった医学の語彙との接点が見えなくなります。

語彙が現象を切り分けるという事情は、調査票にも辞書にも共通しています。項目を細かくすれば回答者は迷い、粗くすれば別の行為が同じ欄へ落ちます。書き手が場面を描くときも、選んだ動詞の一語が、読者にとっての見出しになります。歯を立てる動きにこの語を当てるか、別の語を当てるかで、同じ動作が痛みの側にも親密さの側にも寄っていきます。数えるための言葉と書くための言葉は、この一点で同じ困難を共有しています。

文: hakadoru.ai 編集部

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