押し車

【おしぐるま】名詞句

同義語

同品詞の類義語

押し込み文芸的
車輪
重ね押し文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

押して回る文芸的
押し回る

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

車輪のように文芸的
回転する

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

回しながら

体言的言い換え

用言を体言に変換

回転体位文芸的
回し技

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

ぐるりと回るcolloquial
円を描くように文芸的
回転遊戯文芸的

関連語を探す

押す者は書かれない

押し入れは物を押し込む場所を指し、押し花は重しをかけて平らにした花を指し、押し寿司は型に詰めて押し固めた飯を指します。先頭の「押し」は同じ形をしているのに、力の向きも、押される物と語のつながり方もそろっていません。押し入れでは場所が、押し花では結果が、押し寿司では製法が名になっています。日本語の複合語は、動詞の連用形に名詞をつなげるだけで、その名詞が動作の対象なのか場所なのか結果なのかを表に出しません。格を書かないというこの性質が、同じ形をした語に幅の広い受け皿を与えてきました。

押し車が明示しているのは、押されるものが車であるという一点だけです。押す者については何ひとつ書かれていません。乳児が体重を預けて歩く道具も、荷を運ぶ手押しの台も、閨房の作法として伝えられてきた名も、この語形を共有しています。文脈を外して語だけを机に置けば、どれとも決まらないままです。名づけが情報を落としているというより、落とした場所に読み手を立たせる作りになっている——押し車を性愛の語彙として読むときには、その空席のほうが効いてきます。

一語足せば、空席は埋まります。手押し車と言えば、押しているのが人の手であることが名の内側へ入ってきます。乳母車なら、押す側のほうが名の先頭に立ち、乗っている乳児は名に現れません。ほとんど同じ形の道具でも、名がどの成分を表へ出すかは一定していないのです。対象を入れるか、動作主を入れるか、製法や結果を入れるか。どれを選んでも、二語からなる名が運べる成分は一つきりです。名づけは対象の全体を写しません——写す成分を一つ選び、残りを落とす作業です。捨てられた成分は消えるのではなく、読む側の見当に預けられます。押す者の位置が空いたままの語を閨の文脈へ置いたとき、その空席には、書かれていない一人が座ることになります。

言語学者シゲル・ミヤガワは、日本語の統語、項構造、語順を研究しています。日本語では、動作主や対象が談話から回収できれば、文の表面に現れないことがあります。誰が押し、誰が押されるかを書かない文も、文法が壊れているのではなく、前後の文脈へ項の同定を委ねているのです。ただし主体が交替する場面では、同じ省略が複数の読みを残します。現代語訳や外国語訳で代名詞を補えば読みやすくなる一方、訳者が一つの配置を選んだ瞬間に、原文が保っていた空席は失われます。省略を運ぶ翻訳には、意味だけでなく、決めずにおく範囲の選択が伴います。空いた項が読者ごとに別の人物で埋められていても、その差は本文の側からは検出できません。

埋めさせるという方針は、取締りの時代にいっそう鍛えられました。寛政の改革では好色本や絵入りの艶本が規制の対象となり、以後も版元は書名を変え、序文を偽り、絵と文を別々に流通させています。近代に入ると伏字が広く使われました。これは当局が一字ずつ指定したというより、発売禁止という重い処分を避けるために出版側が先回りして施した処置として広まったもので、削られた文字の位置に丸や罰点だけが残ります。何字ぶんが消されたのかは見えるという状態は、消される前の文よりも強い喚起力を持つことがあります。空白は隠蔽の跡であると同時に、読者に作業を割り当てる装置としても働いてきました。

削られた部分を読者が埋めるという関係は、戦後にもう一度、法廷の場で確認されています。イギリスの小説の翻訳が猥褻文書として起訴され、一九五〇年代に最高裁で有罪が確定した事件です。問題とされたのは作品の全体ではなく、身体を描いた特定の箇所でした。削れば流通が許され、残せば罪に問われる。文章の一部が、面積を持った物のように扱われていたことになります。そして削除された版を手に取った読者は、どこが削られたのかを知ったうえで読みはじめます。取締りは空白を減らそうとして、読む側の作業をむしろ増やしてきました。

押し車という名を動作の説明として読もうとすると、必ず不足が出ます。この名は説明を目指していません。押されるものの形だけを置いて、押す者の位置は空けたまま渡してくるのです。その空席を誰がどう埋めるかは、名の側では決められていません。格を書かない言語で名づけられた作法が、主体を書かない文体で綴られた文学と同じ手つきを持っているのは、おそらく偶然ではないでしょう。空席を残す名は、読み手を客席に置きません。埋める作業を割り当てられた時点で、読み手はすでに配置の内側にいます。どちらも、書かないことで書いています。

文: hakadoru.ai 編集部

エディタで直接置換して執筆を加速

SaaS エディタではシソーラスの結果をワンクリックで本文に反映できます

無料で始める →