犯す

【おかす】動詞

同義語

同品詞の類義語

貫く文芸的
突き入れる
突き立てる

類義句

同品詞の慣用的言い換え

肉体を交える文芸的
交わりを結ぶ文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

野獣のように
獣欲に駆られて文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

激しく
貪るように

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

求める
貪る

体言的言い換え

用言を体言に変換

交わり文芸的
欲望の赴くまま

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

獣のように
本能のままに

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三つの漢字に分かれた一語——領域として扱われてきた身体

「危険を冒す」という言い方には、責められる要素がひとつもありません。むしろ称賛に近い響きすら帯びます。ところがこれは、罪を犯す、領土を侵すと同じ和語の「おかす」です。音のうえでは一語でありながら、表記が三つに分かれ、それぞれ違う評価を引き受けている。近代の表記整理が意味の分担を固定した結果ですが、分担される前の一語がどこを指していたのかは、字を外してみると見えてきます。

三つに共通しているのは、境界の内側へ踏み込むという運動です。罪は法が引いた線の内側、領土は主権が引いた線の内側、危険は安全という線の外側——向きは違っても、線を越えるという一点で揃っています。和語の「おかす」は越境そのものを名指していて、越えた先に何があるかは言いません。善悪の判定は、あとから漢字が引き受けました。この語がいまも生々しいのは、行為の中身ではなく境界の存在だけを前提にしているからでしょう。

性をめぐる制度は、長いあいだこの「線の内側」という発想で組み立てられてきました。かつて日本の刑法にあった姦通罪は、妻の姦通のみを処罰の対象とし、しかも夫の告訴がなければ立件されない仕組みでした。一九四七年の改正で削除されるまで、そこで守られていたのは妻の意思ではなく、夫の側の権利です。誰かの領域を侵したという構図に、この動詞が帯びてきた意味は正確に対応しています。

境界の思想は、都市の作りにも刻まれていました。近世の遊廓は塀と堀に囲われ、出入口が限られた区画として都市の内側に置かれています。逸脱を禁止するのではなく、線を引いて囲い込み、その内側でだけ成立させる。悪所と呼ばれた場所が同時に流行や意匠の発信地でもあったのは、囲いの内外で規範が切り替わる仕組みだったからです。囲いの内側でだけ通用する規範——それが、この種の区画に共通する設計思想です。境界を引く側にとって、越境は制度の失敗ではなく、制度が想定している運用の一部でした。この構図に立てば、「犯す」という語が指しているのは行為の内容ではなく、線をどちら向きに越えたかという情報だけになります。

近年の法改正は、その構図そのものを動かしました。二〇一七年に強姦罪が強制性交等罪へ改められ、二〇二三年にはさらに不同意性交等罪という名称になっています。名称の変遷が示しているのは、犯罪の記述の中心が、加えられた力の有無から、同意が成立していたかどうかへ移ったことです。領域侵犯の語彙では書き切れない事柄を書くために、法の言葉のほうが組み替えられていきました。制度の語彙が動くとき、日常語は必ず遅れて追いかけます。

小説の中でこの動詞を選ぶとき、書き手は古い構図も一緒に運び込むことになります。「犯す」と書けば、被害を受けた側は侵された領域として扱われ、その人自身の意思は文法上どこにも現れません。目的語の位置しか与えられないからです。三つの漢字のうちどれを当てるかより、この和語を選ぶかどうかが最初の分岐になります。語の選択が視点の位置を決めてしまう例として、これほど分かりやすい動詞は多くありません。書かないという選択も、同じ天秤の上にあります。

文: hakadoru.ai 編集部

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