広げる

【ひろげる】動詞

同義語

同品詞の類義語

開く文芸的
展開する
拡がる文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

全開にするcolloquial
広がりを見せる

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

花びらのように文芸的
翼を広げるように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

大胆に
広範囲に

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

解放する

体言的言い換え

用言を体言に変換

開放
全開colloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

大きく
果敢に
限界まで

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たたまれていたものを開く——春画が壁に掛からなかった理由

春画を見るときの姿勢は、美術館の壁の前に立つ姿勢とはまったく違います。近世に流通した性愛画の主要な形態は、巻子、画帖、そして版本の艶本で、いずれも手元に置いて開くものでした。距離をとって眺めるために掛けておく形式ではありません。膝の上で巻を繰り、頁をめくります。鑑賞そのものが手の運動を含んでいて、見る速度は見る側の指が決めていました。

巻子は、一度に全体が見えないという制約を最初から抱えた形式です。両手で腕の幅ほどずつ繰っていくため、画面はつねに部分として現れ、右から左へ、時間のなかで順に展開します。前の場面はすでに巻き取られ、次の場面はまだ現れていません。構図の設計は、この見えなさを前提に組まれます。何を画面の外に置き、何を次の一巻き分まで遅らせるか——省略は配置された空白として働きます。

形態が違えば、視線の設計も変わります。画帖であれば見開きが単位になり、左右の頁のあいだには折り目という切れ目が入ります。艶本のような版本では、繰る速度は読み手の手に委ねられながら、彫りと摺りの都合で図と文が交互に置かれ、視線は文字と絵のあいだを往復することになります。掛けて眺める形式が生まれなかった事情を、取り締まりを避けるためという一点だけで説明するのは無理があります。手の運動を含んだ鑑賞そのものが、この種の画の前提として最初から設計されていたと見るほうが、形態の分布とよく合います。

構図の上で目を引くのは、布がどこまで広げられているかという一点です。天明から寛政にかけての作例では、敷かれた夜具と、そのうえに広がった衣の面が画面の骨格を作っています。たたまれていた布が今は広げられた状態にあること自体が、その場面の時刻と経過を伝える情報になっているわけです。西洋の裸体画が身体そのものに面積を与えるのに対して、この系統の絵は布に面積を与えます。視線は文様の流れに沿って導かれ、進む速度は布の広がり方が決めます。

表記の側にも、この語の性格が残っています。常用漢字表が「広」の字に認めている訓は、ひろい、ひろまる、ひろめる、ひろがる、ひろげるの五つで、一字が形容詞と自動詞と他動詞をまとめて引き受けています。いっぽう「拡」の字には常用の訓が与えられておらず、拡げると書くのは表外の慣用にあたります。慣用の分担としては、面が増えるのが広、倍率が上がるのが拡です。布を広げる、袖を広げるという言い方が「拡」を呼び寄せないのは、そこで起きているのが拡大ではなく、たたまれていたものが本来の面積を取り戻す動きだからでしょう。

巻子も、屏風も、扇も、衣も、たたまれた状態を平常とし、広げられた状態を一時とします。この動詞は面積を増やしているのではなく、隠れていた面を一時的に外へ出しているにすぎません。だからそこには、いずれ元に戻るという含みがつねに残ります。たたむという対の動作が語彙にきちんと用意されていることも、この一時性を裏づけています。近世の性愛画が私的な閲覧の形式を離れなかったことと、この語が抱えている一時性は、おそらく同じ設計思想の裏と表です。

文: hakadoru.ai 編集部

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