卑猥

【ひわい】形容動詞

同義語

同品詞の類義語

淫らな文芸的
猥褻な文芸的
扇情的な

類義句

同品詞の慣用的言い換え

あられもない文芸的
露骨な

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

熱帯夜のような文芸的
欲望の炎に包まれた文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

熱く
むせぶように文芸的

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

乱れる

体言的言い換え

用言を体言に変換

官能の渦文芸的
情欲の炎文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

あからさまに
淫靡に文芸的

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法が平仮名で書いた語、人が漢字で選ぶ語

刑法の条文は、規制の対象を平仮名で「わいせつ」と書きます。漢字の猥褻でも、日常語の卑猥でもありません。表記を開くことで、この語は日常の語感からいったん切り離され、法が定義する術語として立ち上がります。読み手の情動を呼ばない書き方を選んだうえで、呼ばれてしまう情動のほうを取り締まっているわけです。

最高裁は一九五七年のチャタレイ事件判決で、わいせつを三つの要件によって定義しました。いたずらに性欲を興奮または刺激させること、普通人の正常な性的羞恥心を害すること、善良な性的道義観念に反すること。三つとも、対象そのものの性質ではなく、対象が受け手に及ぼす作用を述べています。判定されているのは物ではなく、物と読者のあいだに起きる出来事のほうです。以後の裁判でも、争点は繰り返しこの「普通人」という想定の側へ戻ってきました。

これに対して「卑猥」という語は、判断の位置をあらかじめ露出させます。「卑」は低いこと、いやしいことです。上下の軸が語のなかに組み込まれていて、この語を使う者は必ず上に立つことになります。もう一方の「猥」には、字義として「みだり」「雑多」の層があり、猥雑という語にその層がほとんどそのまま残っています。整理されないまま入り混じっている状態——性的な含意は、この乱雑さの意味から特殊化したものと考えられています。

漢語であること自体も効いています。和語の側には、卑猥に正確に重なる一語がありません。「いやらしい」は近い位置にありますが、感覚的な嫌悪が前に出て、上下の評価軸は弱くなります。二字の漢語は、対象との間に一段の距離を作ります。目の前のものを直接名指す代わりに、分類の名前で呼ぶ——訓読みを避けることが、そのまま体温を下げる操作になっています。この距離があるからこそ、卑猥という語は批評にも、法廷の外側の議論にも、あるいは軽い揶揄にも使い回せてきました。距離は中立性ではなく、位置を隠すための装置です。

法の側の表記そのものにも歴史があります。明治十三年に公布された旧刑法はすでに「猥褻」の語を用いており、明治四十年の現行刑法もこれを引き継ぎました。当時の条文は片仮名の文語体で、字はもちろん漢字です。平仮名の「わいせつ」が条文に現れるのは、刑法が平成七年に口語化されてからにすぎません。百年以上のあいだ、法は日常語と同じ字面でこの語を書いていたことになります。開いた表記が中立を演出しているように見えるとすれば、その中立はかなり新しく作られたものです。

書き手が「卑猥」と選ぶとき、描写されているのは対象ではなく、その対象を見ている誰かの目です。地の文に置けば語り手の立ち位置が決まり、人物の台詞に置けばその人物の階層意識が露出します。近い領域を指す語を並べてみれば、角度の違いははっきりするでしょう。淫靡なら陰の湿度が前に出て、猥雑なら情報量の多さが前に出る。艶と書けば評価の符号そのものが反転します。同じものを指しているように見えて、どれも判定する側の立ち位置が違うのです。法が平仮名で書いたのは、おそらくその角度を消すためでした。

文: hakadoru.ai 編集部

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