拡げる

【ひろげる】動詞

同義語

同品詞の類義語

広げる
開く
展開する

類義句

同品詞の慣用的言い換え

広がりを感じる文芸的
開き広げる文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

大地の如く文芸的
翼を広げるように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

大きく
大胆に

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

開示する文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

開花文芸的
開放

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

全開にcolloquial
広げ尽くす文芸的
大いに文芸的

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ゆるめると太くなる——拡張は力の結果ではない

明るい部屋から暗がりへ入ると、瞳孔は数十秒をかけて開いていきます。直径はおよそ二ミリから七ミリまで動き、取り込める光の量は孔の面積に比例します。径が三倍半になれば面積はおよそ十二倍ですから、わずかな差が入射量を大きく変えます。開閉を担うのは虹彩にある二種類の筋で、一方が縮めば孔は絞られ、もう一方が縮めば孔は引き開けられます。開くという結果は、絞る筋がゆるむことと、開く筋が働くことの両方から作られています。

体の内側では、拡張はもっぱら弛緩の結果として起こります。血管の太さを決めているのは壁の平滑筋で、その緊張が抜けると内腔が広がり、流れる量が増えます。暑いときに皮膚が赤みを帯びるのは、体表近くの血管が開いて熱を逃がしているからで、放熱の量は流量に従います。気管支も同じ仕組みで、平滑筋がゆるめば空気の通り道が太くなります。収縮は力を入れれば作れますが、拡張は力を抜くこと——緊張の解除によってしか作れない場面が多いのです。

もっとも、弛緩が万能というわけではありません。息を深く吸い込むときの胸郭は、外肋間筋と横隔膜が縮むことで押し拡げられます。ここでは筋が働いた分だけ容積が増え、力と結果が素直に対応します。その代わり、静かな呼気のほうは筋の仕事をほとんど必要とせず、伸ばされた組織が元へ戻る弾性だけで空気が押し出されます。同じ胸郭で、拡げるときが能動、戻るときが受動という配分になっているわけです。生体の中では、広がる過程が能動である場合と受動である場合が、部位ごとに入れ替わります。

日本語の表記に戻ると、この語には制度上の但し書きがつきます。常用漢字表に載る「拡」の読みは音の「カク」だけで、「ひろげる」という訓は認められていません。新聞や公用文が「広げる」に統一しているのはそのためで、表外訓と承知のうえで選ばれる書き方です。意味の重心もわずかに違います。「広げる」が面の話に寄るのに対し、「拡」の字は拡大・拡散・拡充のように、範囲や規模が外へ及ぶ方向を担ってきました。

字の来歴も、この方向を裏づけています。「拡」は旧字体「擴」を簡略化した形で、旁の「廣」が音を担います。『孟子』公孫丑上には、人に備わる四つの端緒について、これを擴めて充たすことを知れ、と述べる一節があり、拡充という熟語の出どころとされます。もともと備わっているものを外へ押し及ぼして満たすという発想——無から作り出す話ではありません。生理の記述と重ねると、この含みは正確です。血管も気管支も新しく作られるのではなく、すでにある管が太さを変えているだけだからです。

文章の中で選ぶときにも、同じ区別が効いてきます。面積が増える話であれば「広げる」で足り、及ぶ範囲や許容量の話であれば「拡」の字が働きます。身体の描写でいえば、腕を左右へ伸ばす動きは前者に属し、呼吸のたびに使える容積そのものが増えていく過程は後者に近いところにあります。後者で起きているのは、こわばりが抜けて元から在った可動域が使えるようになることであって、新しい空間が足されるわけではありません。表外訓をあえて選ぶ書き手は、その差を引き受けていることになります。

文: hakadoru.ai 編集部

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