肌身
【はだみ】名詞同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
直喩変換
「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩
副詞的言い換え
情態副詞・形容詞の副詞的変換
動詞的言い換え
形容詞・副詞を動詞句に変換
体言的言い換え
用言を体言に変換
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩
情態副詞・形容詞の副詞的変換
形容詞・副詞を動詞句に変換
用言を体言に変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
この語には、単独で歩く力がほとんど残っていません。肌身離さず、肌身に沁みる——現代の書き言葉に現れる用例は、その二つの言い回しの内側にほぼ限られます。主語に立つことも、単独で目的語になることも稀です。慣用句が容器になって、そのなかでだけ語が生き延びている状態を、化石化と呼ぶことがあります。は・だ・み の三拍しかないこの語は、二つの型に守られてかろうじて現役でいます。
構成を見ると、肌と身が重ねられています。どちらも体を指す語で、意味の上では一方があれば足りるはずです。それでも重ねられているのは、二字が同じ範囲を指していないからだと考えられます。肌は表層、身は全体で、表層を先に置いて全体を後ろに従えることで、密着の度合いが強まります。離さないと言うだけなら身だけで済むところに、あえて皮膚の語を先頭へ持ってきます。持ち物が触れている場所を、この語は具体的に指定しているわけです。
肌という字は、近代の日本語のなかで、性に触れる話題を扱うための迂回路として使われてきました。肌を許す、肌を合わせる、肌を重ねる——いずれも表層の語で全体を代表させる言い方で、露骨さを避けながら、避けたことが読み手に伝わるように設計されています。婉曲というのは意味を薄めることではなく、迂回した経路そのものを見せる技法です。肌身という語が担う密着の感触も、この系列と地続きのところにあります。
遊里の慣習には、心中立てと呼ばれる誓いの作法がありました。起請文を書き、爪を剥ぎ、あるいは相手の名を肌に彫りました。起請彫りと呼ばれたこの刺青は、肌身離さずという言い方の最も物理的な実装だったと言えます。制度の外に置かれた関係は、証文の効力を制度に頼れません。頼れないから、身体そのものを担保に差し出す。紙の誓いは焼けば消えますが、皮膚に入れた墨は、当人が生きているかぎり取り消せない形で残ります。
肌という字の射程は、人の身体の外へも伸びています。山肌、地肌、木の肌といった語がその例です。物の表面を人体の語で呼ぶ転用は、日本語のなかで早くから定着してきました。肌理という語に至っては、視覚と触覚の両方にまたがって、紙にも布にも陶器にも使われます。肌合いが合う、という言い方は、もはや皮膚とは無関係の相性を指しています。表面という抽象的な概念を、この一字はいまも身体から借りたまま運んでいる。肌身という複合が持つ生々しさは、こうした拡張のなかで唯一、人の身体へ引き戻されたところに生じています。
守り袋、形見の品、写真、鍵——いま肌身離さず持たれているものの多くは、失いたくないというより、失われたときに自分の側が変わってしまうものです。この語が指定しているのは、鞄の中でも引き出しの中でもなく、体温の届く距離です。持ち物と身体のあいだの隙間をゼロに近づけたい、という願いを言うのに、これより短い言い方が日本語には見当たりません。使われなくなった語が二つの慣用句だけに残ったのは、代わりが作られなかったからだと考えられます。
文: hakadoru.ai 編集部
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