秘唇
【ひしん】名詞同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
直喩変換
「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩
副詞的言い換え
情態副詞・形容詞の副詞的変換
動詞的言い換え
形容詞・副詞を動詞句に変換
体言的言い換え
用言を体言に変換
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩
情態副詞・形容詞の副詞的変換
形容詞・副詞を動詞句に変換
用言を体言に変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
解剖学の用語である陰唇は、ラテン語で唇を意味する語をそのまま訳したものです。ヨーロッパの解剖学が身体の別の部位に唇という語を当てた判断を、近代日本語は翻訳を通じて丸ごと受け継ぎました。いっぽう秘唇のほうは翻訳ではなく、日本語の内側で組み立てられた艶語です。出自の異なる二つの語が、同じ部位に対して同じ一字を選んでいる——別の系統をたどった二本の道が、唇という字の上で合流したことになります。比喩の選択が偶然の一致で説明しにくいのは、この重なりのせいです。
唇は、貸し出されることの多い部位名でもあります。英語では水差しの注ぎ口の縁を lip と呼び、日本語は同じ場所を口縁と言います。針の目、瓶の首、椅子の脚、山の肩と並べれば、身体部位の名が器物や地形の語彙へ絶えず流れ出していることが見えてきます。ただし流出の量は部位によってはっきり偏っています。肘や膝から作られた比喩は多くありません。どの部位が語彙を供給する側に回るのかには、身体の使われ方が反映されているようです。
認知科学の側から見ると、この偏りには手がかりがあります。体性感覚を担う皮質の地図では、身体の実寸と皮質上の面積が対応しません。唇と手指が不釣り合いに広い領域を占め、背中や大腿は狭く押し込められています。運動の指令を出す側の地図でも事情は同じで、唇と舌のまわりに割かれた領域は、体幹全体に割かれた領域より広く取られています。触覚の解像度が高い場所ほど、そこで起きたことを言い分ける必要が生じ、語彙の側でも分節が細かくなっていきます。
この部位には、もうひとつ別の仕事も割り当てられています。両唇を閉じて息を止め、それを開いて出す音を、音声学は両唇音と呼びます。日本語のぱ行、ば行、ま行はいずれもこの動きで作られており、閉じることと開くことの切り替えが、そのまま子音の区別になります。触覚の受容器が密に並び、随意に形を変えられ、しかも発話の産出に関わる——三つの機能が同じ場所に重なっている部位は、身体のなかでもそう多くありません。語彙を供給する側に回りやすいのは当然だと言えます。
もう一つ効いているのは、唇が縁だという点でしょう。視覚系は一様に広がる面よりも、明るさや質感が切り替わる境界に強く反応します。唇は色と表面の性質が変わる帯であり、しかも開閉によって形そのものが変わり続けます。次に来る形の見込みを立てながら入力を受け取る仕組みにとって、見込みが更新され続ける場所は注意を集めやすい対象です。静止した輪郭ではなく、動く輪郭であること。唇という部位名が繰り返し他所へ貸し出される背景には、この動きの含みがあります。
秘の一字は見えないことを言い、唇の一字は縁を言います。組み合わせると、見えない縁という妙な指定になります。縁というものは、こちら側とあちら側を隔てながら、そのどちらにも属している場所です。隔てる働きと属する働きが同居しているからこそ、そこは輪郭としても触覚としても情報が集まります。この語が選んだのは器官の名ではなく、身体のなかで最も分節の細かい境界の呼び名でした。名づけは、隠すと言いながら、どこに注意が向くかを正確に指し示しています。
文: hakadoru.ai 編集部
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