擦りつける

【こすりつける】動詞

同義語

同品詞の類義語

摩る文芸的
擦るcolloquial
撫で回す

類義句

同品詞の慣用的言い換え

肌を合わせる
熱を交える文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

火照るような文芸的
官能的な

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

ねっとりとcolloquial
激しく

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

愛撫する

体言的言い換え

用言を体言に変換

絡み合い
官能の舞文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

求め合う
交わり合う文芸的

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方向を持ってしまう記述——「擦りつける」と症状の言葉

診療記録に書かれる行為の描写は、できるだけ評価を含まない言葉であることが求められます。「暴れた」ではなく「上肢を反復して振る動きが続いた」と書き換えます。患者の言い分は要約せず、口にした通りを引用符に入れて残すという作法も、同じ考え方から来ています。記述精神医学と呼ばれる系譜が二十世紀のはじめに整えたのは、この種の禁欲でした。観察を先に置き、解釈を後へ回す——順序を守ること自体が方法とされました。

「擦りつける」は、その禁欲がうまく働かない語のひとつです。前項の「擦る」は接触面での往復運動だけを指しますが、後項の「つける」が加わると、押し当てて離さないという持続と、押し当てる側の意志とが同時に入り込みます。方向も固定されます。擦りつけるのは常に主語の側で、擦りつけられる面は受け身の位置に留まります。同じ形の「なすりつける」が責任の転嫁を意味するようになったのは、この方向の固さと無関係ではないでしょう。

同じ語根から派生した語を並べると、この動詞の位置がもう少し見えてきます。「擦れる」は自動詞で、主語には摩擦を受ける側が立ちます。「擦り切れる」まで行くと、繰り返しの果てに素材そのものが失われたことまで含みます。つまり、こする系の語彙は、接触の強さよりも、繰り返しの回数と痕跡の残り方を測る目盛りを持っているのです。衣服の袖口や階段の縁がそうであるように、擦れた跡は場所の側に残ります。行為者が去ったあとも記録が残るという点で、この系列は他の接触動詞とは違う後始末を抱えています。

やっかいなのは、同じ動作が文脈によって症状の欄に入ったり入らなかったりすることです。頬を相手に擦りつける動きは、愛着の表現としても、自己刺激の反復としても記述できます。臨床の語彙で常同という訳語が当てられるとき、そこで測られているのは動作の形ではありません。頻度と、止めようとして止まるかどうかと、その場に他者を必要とするかどうか——境界はこの三つの側にあって、動作そのものの内側にはないのです。三つのうち二つは、観察の時間を長く取らなければ判定できません。一場面を切り取った記録が症状の証拠になりにくいのは、そのためです。

記述の中立を守ろうとすると、日本語の側から抵抗が来ます。触れる、当てる、押しつける、擦りつける。並べただけで、圧の強さと意志の濃さの目盛りができています。この目盛りを避けようとすれば「体幹を対象物に接触させた」のような無機質な文になり、今度は何が起きたのかが読み取れなくなります。精度を上げるほど像が薄くなるという交換が、症状記述にはつきまといます。

小説の側から見ると、この抵抗はそのまま資源になります。人物が何かに頬を擦りつける一行は、動作を報告しながら、同時にその人物の切迫まで報告してしまうのです。書き手はそれを承知で使い、必要なら方向を反転させて、擦りつけられた面の側から書くこともできます。臨床が削ぎ落とそうとした情報は、物語では拾うべき情報です。ただし拾いすぎれば、人物は動作のたびに感情を説明されることになり、読者が自分で観察する余地は消えます。

文: hakadoru.ai 編集部

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