内壁

【ないへき】名詞

同義語

同品詞の類義語

柔肌の襞文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

熱く湿った襞文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

絹のヴェールのように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

しっとりと

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

包み込む

体言的言い換え

用言を体言に変換

秘所の襞文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

熱情の渦文芸的

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器物の語彙へ逃げ込む——検閲が育てた迂回

戦前の書物には、活字が伏せられたまま印刷された頁があります。伏字と呼ばれるその処理は、丸や罫や×の連なりで語を隠しながら、隠された語がそこにあることだけは律儀に伝えました。読者は字数を数え、前後の呼吸から復元しようとします。取り締まる側と書く側の攻防が、活版の物理的な痕跡として紙に残ったわけです。文章の技法史を眺めると、性愛を扱う文学は、規制のたびに直接の名指しを手放し、別の語彙圏から言葉を借りて戻ってくるという往復を繰り返してきました。

借り先として最も使われてきたのが、建築と器物の語です。日本語の中空の器官は、ほとんどが壁で語られます。胃壁、腸壁、血管壁、心室の壁——袋や管の形をしたものには、必ず壁という語が割り当てられました。壁は面ではなく、内と外を分ける厚みを持った仕切りであり、その語を使った瞬間に、内部という空間が同時に立ち上がります。内壁という言い方は、外壁の存在をも黙って引き受けています。外側から見られる面と、内側からしか触れられない面を、一つの構造の裏表として扱う語だからです。慣用の世界では、壁はもっぱら隔てる側の比喩に使われてきました。壁を作る、心の壁、壁にぶつかる——いずれも進むことや通じることを妨げる何かとして語られます。内壁という言い方はその用法から外れており、隔てるためではなく、内側にいる者だけが触れられる面を名指すために使われます。同じ字が、向きを一つ加えるだけで役割を替えるわけです。

猥褻をめぐる裁判は、この迂回に法的な圧力をかけ続けました。伊藤整訳の『チャタレイ夫人の恋人』は一九五〇年の刊行後に起訴され、一九五七年に最高裁で有罪が確定しています。作者をめぐって説の分かれる戯作『四畳半襖の下張』も、雑誌に掲載されたことをきっかけに裁かれ、一九八〇年に有罪が確定しました。二つの裁判が争ったのは、描写の有無というより、どこまでの語が公刊に耐えるかという線引きです。判断の基準が明文で示されない以上、書き手は毎回、自分で線を推定して語を選ばなければなりませんでした。

推定の結果として選ばれる語には、独特の効果が生まれます。器物の語彙は身体の外側から与えられた比喩ですから、それを内側の感覚に当てると、視点が二重になります。壁という語が呼び出すのは、触れている感触ではなく、断面図のような俯瞰です。読者は自分が内側にいるはずの場所を、設計図の目で眺めることになります。直接の語であれば一度で終わったはずの伝達が、迂回によって図と感覚の二層に分かれる——検閲が意図せず育てたのは、この視点の複層でした。

もっとも、迂回した語が常に強いわけではありません。器物の語彙は精度が高い代わりに温度を持たず、多用すれば文章は仕様書の顔になります。近代の官能小説が良質な部分で行ってきたのは、借りてきた語を一つだけ置いて、残りは呼吸と語順で支えるという配分でした。内壁のような語は、一篇に何度も置けば効き目を失い、一度だけ置けば断面の像を残して消えます。伏字が字数だけを残したように、迂回の語もまた、名指さなかったものの輪郭を紙の上に残していきます。

文: hakadoru.ai 編集部

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