揉む

【もむ】動詞

同義語

同品詞の類義語

握る
捏ねる
弄ぶ文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

手淫を施す文芸的
揉み解す

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

陶芸家のように文芸的
粘土細工のように

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

じっくりと

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

こねる
押しつぶす

体言的言い換え

用言を体言に変換

手技
マッサージ

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

執拗に
丹念に文芸的

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何も残さない手——「揉み消す」から遡る

煙草の先を灰皿に押しつけ、螺旋を描くように潰して火を殺す。あの手つきが揉み消すという語の元の姿で、火のついたものを手や足で押さえて消す動作を指していました。それが不祥事や噂を隠す意味に転じたのは、火を消す手つきに「痕跡を残さない」という含みがあったからでしょう。同じ動詞から、揉め事、気を揉む、世間に揉まれる、揉み手といった派生が広い範囲に散らばりました。ひとつの語形が、身体接触と紛争と鍛錬と追従とを同時に引き受けているわけです。

これらに共通するのは、力が一方向に流れずに往復していることです。揉め事は当事者が互いに押し合っている状態を指し、世間に揉まれるは外からの圧が反復して加わる状態を指します。押して、戻して、また押す——方向が定まらないまま持続する力に、日本語はこの一語を宛ててきました。だから揉むには、到達点を指定する働きがありません。切るには切断が、割るには分離が結果として組み込まれていますが、揉むにはそれに当たるものがないのです。動詞でありながら、終わりの形を持っていません。

現代の性研究者ローリ・ブロットは、マインドフルネスを用いた臨床研究を通じ、欲望や快を、結果へ急ぐのではなく、その瞬間の身体感覚へ注意を戻すことから捉えます。揉むという動作も、完成品を作りません。粉と水を捏ねれば形が残り、糸を撚れば糸になりますが、揉んだ手が離れたあとに残るのは、温まった皮膚と血の巡りです。圧の強さ、往復の速さ、受ける側の反応へ注意を向けるほど、終点より途中の感覚が細かくなります。この語が快楽の語彙のなかに居場所を得たのは、結果の欠如が欠陥ではなく性質だからでしょう。

もっとも、この動詞は治療の語彙としても長く使われてきました。江戸期の按摩は揉み療治とも呼ばれ、身体をほぐす技として制度のなかに位置を持っていました。稽古の場でも、上位の者が下位の者を「揉んでやる」という言い方が残っています。何も生産しないのに、状態だけは確実に変える——揉むという行為の妙味はそこにあり、快の語彙と治療の語彙が同じ動詞を共有しているのも偶然ではないはずです。効果は身体に残りますが、形としては残りません。

揉み消すの意味変化は、そこにもう一枚を重ねます。この動作は、痕跡を消す側にも働くのです。触れたことが形として残らないなら、証拠も残りません。残らないからこそ反復が要請され、反復が続くかぎり終わりも来ないことになります。揉み手という語に至っては、対象すら失われています。自分の手を自分で揉み、相手には何も触れていないのに、へつらいという意味だけが立ち上がるのです。接触の形式だけが残って中身が抜けた状態を、日本語はきちんと語彙化していました。

書き手の側から見ると、この語は扱いにくく、そして使いでがあります。結果を指定しないということは、書けば必ず時間の長さの問題になるということです。何回、どのくらいの強さで、どこまで続いたか。揉むを主動詞に据えた文は、そのすべてを周辺の語に委ねます。動詞そのものは何も決めてくれません。決めないという性質を利用できるかどうかで、その一語は場面の中心にも、ただの動作報告にもなります。

文: hakadoru.ai 編集部

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