紅葉重ね
【もみじがさね】名詞句同義語
同品詞の類義語
類義句
同品詞の慣用的言い換え
直喩変換
「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩
副詞的言い換え
情態副詞・形容詞の副詞的変換
動詞的言い換え
形容詞・副詞を動詞句に変換
体言的言い換え
用言を体言に変換
婉曲・強調変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
同品詞の類義語
同品詞の慣用的言い換え
「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩
情態副詞・形容詞の副詞的変換
形容詞・副詞を動詞句に変換
用言を体言に変換
ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)
享保七年、幕府は江戸の書物問屋に触書を下し、好色本の新たな出版を禁じました。禁令によって書物そのものが消えたわけではありません。動いたのは、言葉のほうでした。名指しを避け、まったく別の分野の語彙を借りて同じ内容を運ぶ技術が、この時期から目に見えて磨かれていきます。紅葉重ねという名も、その迂回が残した産物の一つに数えられます。
重ねは、もともと衣の色の配合を指す語です。平安の装束では、表と裏、あるいは重ねて着た衣の色の取り合わせに季節ごとの名が与えられ、紅葉を名に持つ配色もそこに数えられました。表に赤系、裏に黄系を置いて、色づいて薄くなった葉の透けを写す——そういう作法だったと伝えられています。配色の名は、着る人の趣味と教養を示す記号でもありました。名前を聞けば、その人がどの季節をどう読んでいるかまで伝わる仕組みです。
日本文学・美術研究者ジョシュア・モストウは、和歌と絵、宮廷女性の文学、ジェンダーと視覚文化の関係を研究しています。衣の配色名が身体の姿勢に転用されるとき、読者は季節の景を思い浮かべ、同時に別のものを読むことになります。紅葉の歌、装束、絵の知識は、飾りではなく意味を開く鍵です。この二重性は取締りを通り抜ける通路にもなりました。読み解けない者には季節の話として通り過ぎ、共有された教養を持つ者には別の身体像が見える。迂回は隠すだけでなく、読者を知識の内と外へ分ける技術でした。
近代に入ると、迂回の技法は翻訳の側にも現れました。外国語の作品を移すとき、訳者はしばしば原文より抽象度の高い語を選び、伏字を使い、あるいは章ごと落としました。伏字は、削除の痕跡をわざわざ紙面に残す点で、色目の借用とは方向が正反対です。前者は消したことを示し、後者は消したことを隠します。同じ検閲への応答でありながら、読者に要求するものがまるで違っていました。伏字は読者に欠落を数えさせ、色目の借用は読者に別の教養を要求します。前者なら誰にでも何かが隠されたと分かりますが、後者は装束の名を知らない読者の前を、季節の話のまま通り過ぎていきます。
もみじという語自体も、変化の記録を抱えています。もとは葉が色づくことを表す動詞から出た名で、奈良の頃の万葉集ではもみちと清音で読まれていたとされ、表記も黄葉の字が多く使われました。赤ではなく黄を当てていたわけです。平安に入ると、もみぢと濁って読まれるようになり、字も紅葉が優勢になります。色づきという現象の呼び方が、音の面でも文字の面でも動いてきた語だということになります。動きやすい語ほど、別の意味を載せて運ぶ器に向いています。
紅葉重ねは、も・み・じ・が・さ・ねの六拍です。ここで注目に値するのは、かさねががさねに変わっている点でしょう。連濁は、前後の語がひとまとまりの一語として熟したことの印であり、二語をその場で並べただけの言い方では起こりません。名づけが定着して初めて音のほうが変わるのですから、この濁点は、迂回が一度きりの思いつきではなく、繰り返し口にされ、共有された作法になっていたことの小さな証拠になります。禁令は名前を消せますが、音の変化までは追えませんでした。
文: hakadoru.ai 編集部
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