小股すくい

【こまたすくい】名詞句

同義語

同品詞の類義語

大股開き文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

開脚の誘い文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

股裂きのような文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

挑発的に

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

股を広げる

体言的言い換え

用言を体言に変換

誘い受けcolloquial

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

淫らな誘い文芸的

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実体のない部位を、制度が数え上げる

小股が切れ上がる、という江戸以来の美人評語があります。すっきりと粋な姿を褒める言い方として長く使われてきましたが、この「小股」が身体のどこを指すのかについては定説がありません。脚の付け根とする説、うなじや足首とする説、そもそも特定の部位ではなく全体の均整を言うのだとする説が並び、辞書もたいていは諸説を併記して終わります。褒め言葉であるはずなのに、褒められた当人にも何を指されたのか分からないという事態が起こりうる語です。これほど流通しながら指示対象が確定しない身体語は多くなく、名づけが実体の同定を必要としないことの、わかりやすい例になっています。

指示が曖昧な語でも、動作と組めば途端に具体になります。相撲では、相手の内股や膝の内側を手ですくい上げて崩す技に、この名が与えられてきました。決まり手の一覧には、掬い投げや小手投げのように、腕や脚の使い方をそのまま名にしたものが多く並びます。そのなかでこの技名だけが、実体の定まらない部位の名を頭に置いています。日本相撲協会が定める決まり手の一覧に現在も収められている技で、下から上へ持ち上げるという軌道が名の後半にはっきり書かれています。前半が指示対象を欠いたまま、後半の動詞が方向だけを与える——組み合わさった結果として、部位は不明でも運動は再現できるという、奇妙に実用的な名前ができあがりました。

近世の遊里は、この種の名づけを大量に生産した場所です。廓には廓詞と呼ばれる独自の言葉づかいがあり、出身地の訛りを隠すために整えられたという説が伝えられています。外の社会と語彙を共有しないことが、そこを別の空間として成立させていました。閨の技法に名を与えて目録にするという発想も、同じ制度のなかで育っています。数え上げるという行為は、対象を管理可能な単位へ切り分けることであり、四十八という数字自体、網羅を意味する慣用的な数として使われました。実際の項目数は本によって違います。

近代に入ると、名づけと数え上げは行政の側の仕事になります。明治初年の芸娼妓解放令に始まる一連の法令は、遊廓を消し去るのではなく、貸座敷という枠組みに置き換えて登録と検査の対象にしました。同じ時期に、風俗を乱すとされた出版物への取締りも整えられ、艶本や技法図は摘発の対象になっていきます。遊里で用いられた源氏名のような呼び名も、登録の体系のなかへ組み込まれていきます。禁じることと管理することは、どちらも対象を一覧にする作業から始まりました。遊里の内側で作られた目録と、行政が作った台帳は、方向は逆でも同じ手つきでできています。

こうして、部位を指さない語が残りました。切れ上がった小股がどこにあるかを誰も特定できないまま、その語を含む技名だけが相撲の一覧に生き延び、艶本の目録にも残っています。身体の語彙は、対象を正確に指すために作られるとはかぎりません。指せないものに名を与え、その名で数え、数えたものを制度が引き取る——この順序で動いた語は、実体をあとから探される羽目になります。定説がないという事実のほうが、この語については最も確かな事実です。

文: hakadoru.ai 編集部

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