媚肉

【びにく】名詞

同義語

同品詞の類義語

淫らな花弁文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

熱い肉の襞文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

絹のような
桃色の

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

官能的に

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

蠢く文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

淫らな秘所文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

蜜に濡れた文芸的
淫靡な文芸的

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部分が意図を持つとき

ある種の小説を読み慣れた人なら意味を取り違えることがないのに、一般の国語辞典には立項されていない——そういう語がいくつかあります。この二字もその一つです。辞書に載らないまま機能する語は、たいてい特定のジャンルの内部で育ったもので、読み手の側があらかじめ場面を知っているために語義の説明を必要としません。語彙が共同体の外へ出ないかぎり、辞書は追いかけません。逆に言えば、こうした語には、育った場所の考え方がそのまま化石のように残っています。

後半の一字から見ていきます。漢語で肉の字を後ろに置く熟語には、筋肉、果肉、贅肉、皮肉といった幅があり、この字が担っているのは、固有の器官名を持たない部分をひとまとめに指す働きです。骨でもなく皮でもなく——名づけの網の目から漏れたところを引き受けています。位置を言わず、機能も言わず、ただ肉であるとだけ言います。名指しを半分拒んだ土台に、前半の一字が動詞をひとつ載せる。媚びるという動詞は、意図を持つ主体にしか使えないはずのものです。

精神分析の対象関係論は、乳児が最初から他者を一人の全体として体験するわけではないと考えます。世話をする相手は、まず部分として現れます。与えてくれる部分と、与えてくれない部分。クラインの系譜の議論では、この部分がそれぞれ独立した意図を持つものとして扱われる段階があるとされ、部分対象という名で呼ばれてきました。良いものと悪いものに割って体験する操作は、分裂という語で記述されています。全体として抱えるには荷が重い対象を、扱える大きさに割ってしまう手続きです。

対象という術語そのものも、この点では周到にできています。欲動が向かう先を指すこの語は、人であっても、人の一部であっても、物であっても構わない設計になっています。誰かを愛するという言い方が当然の前提にしている全体性を、術語の側はあらかじめ外してあるわけです。日本語の訳語に選ばれた二字にも、その中立さは保たれています。理論が慎重に外した全体性を、辞書に載らない語のほうは、まったく別の動機から同じように外していることになります。

この語が奇妙なのは、成人の書き言葉のなかで同じ構造をそのまま反復している点でしょう。意図を身体の一部に与えれば、その部分は当人から独立した意志を持つことになります。行為の帰属先が人から部分へ移った瞬間、当人は自分の身体を眺める観察者の位置へ動きます。症例の記述で繰り返し拾われてきたのも、語りのなかで身体の一部が突然主語になる場面でした。たとえば腕が動かないと言うか、腕が動きたがらないと言うかで、記述の水準はひとつずれます。前者は機能の報告ですが、後者は意図の帰属です。

効果のほうは、はっきりしています。この語を選んだ文章は、視点人物の身体を三人称で扱うことになります。距離が生まれ、責任が薄まり、そのぶん描写は当人の内面から遠ざかります。狙って選ぶなら有効に働きますし、密着した一人称で押していきたい場面では逆に作用します。部分に名を与えるという操作は、対象を近くへ引き寄せているようでいて、実際には対象を切り離す手つきです。切り離したうえで、切り離した側にだけ意図を残す——辞書の外で育った語彙が、臨床の記述と同じ形を保存していたことになります。

文: hakadoru.ai 編集部

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