慄く

【おののく】動詞

同義語

同品詞の類義語

震える
身震いする
戦慄する文芸的

類義句

同品詞の慣用的言い換え

身が粟立つ文芸的
身悶える

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

地震のような
嵐に打たれたように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

激しく
小刻みに

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

揺れる
痙攣する

体言的言い換え

用言を体言に変換

震え
身震い

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

鳥肌が立つcolloquial
身が引き締まる文芸的
電撃が走るcolloquial

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表の外に残された訓——症状記述の言葉としての「慄く」

常用漢字表に「慄」の字が加わったのは二〇一〇年の改定のときで、そこで示された音訓は「リツ」ひとつでした。用例欄に並ぶのは戦慄です。公用文や新聞の基準に照らせば、この字を「おののく」と訓で読ませる書き方は表の外側にあります。官庁の文書がこの語を選ばないのは、意味が強すぎて憚られるからではありません。単に、表に載っていないからです。結果として、この訓を制約なく使える場所は文学の側にだけ残されました。書き手にとっては、公的な語彙から零れ落ちた語がひとつ手元にあるということになります。

哲学者アンソニー・フェルナンデスは、現象学を取り入れた質的研究法を開発し、抑うつや気分障害の複雑な経験を、本人の表現から調べています。似た言葉でも、それぞれがどの経験を指すのかを初めから決めず、面接の文脈で聞き分ける方法です。「怯えている」と書けば対象が想定され、「興奮している」と書けば程度の評価が入ります。慄く、という語はそのどちらも確定せず、身体の側で起きていることをまず差し出します。ただし解釈を消す魔法の語ではありません。何に向かい、いつ始まり、本人がどう受け取ったかを尋ねる入口になります。

拍で並べると、おののくは お・の・の・く の四拍、ふるえるは ふ・る・え・る の四拍で、長さは同じです。それでも二つの語は同じ場所を指しません。震えるが振幅そのものの記述であるのに対し、慄くは、まだ起きていない何かに向かって身体が先に動いてしまう事態を指します。寒さで震えるとは言えますが、寒さで慄くとは言いません。ここに、対象のはっきりした反応と、対象を名指せないまま身体だけが応じている状態とを分ける古い線が畳み込まれています——臨床の記述はこの線を長いあいだ引き直してきました。

近い語をもう一つ並べると輪郭がさらに絞れます。わななくも わ・な・な・く の四拍で、震えを言う点では同じです。ただしわななくは怒りにも寒さにも使え、感情の種類を選びません。慄くのほうは、恐れと、恐れに似た昂ぶり以外の場面にはほとんど現れないのです。同じ拍数の三語が、それぞれ違う制約を抱えて共存している。日本語がこの領域に複数の語を維持してきたのは、震えという現象が、原因を特定しないまま観察できてしまうからでしょう。

字面も同じ方向を向いています。慄の偏は心を表す忄で、そこに栗が声符として据えられています。類義の「粟立つ」が皮膚の表面に現れる現象を言うのに対し、慄くは胸のうちで起きることとして書かれてきました。同じ震えを、外から観察できるものと本人にしか届かないものとに分けて持っている——書き手にとって重要なのはこの使い分けのほうです。相手の慄きは推測でしか書けず、語り手の慄きだけが断定で書けます。視点の位置が、語の選択で露呈してしまうわけです。

性愛の場面でこの語が働くのは、快と恐れが身体の上ではしばしば見分けのつかない形をとるからです。臨床の記述語彙は、もともとどちらとも判定しないために作られてきました。診断を下さず、起きていることだけを置く。表の外に残されたこの訓は、そのための道具として使えます。

文: hakadoru.ai 編集部

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