達する

【たっする】動詞

同義語

同品詞の類義語

絶頂を迎える文芸的
クライマックスを迎える
果てるcolloquial

類義句

同品詞の慣用的言い換え

極みに至る文芸的
昇りつめる

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

山頂に立つように文芸的
頂点の輝き
限界を超えるcolloquial

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

限界まで
最高潮に

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

昇天するcolloquial
燃え上がる

体言的言い換え

用言を体言に変換

絶頂の時文芸的
最高の瞬間

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

最高潮を迎える
快楽の頂文芸的

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ニ格を空けたまま——閾値の動詞について

新聞の見出しに現れるとき、この動詞はほとんど必ず数値を連れています。失業率が何パーセントに達した、被害額が何億円に達した、待機者が何万人に達した、といった具合です。到達点を助詞「に」で指し示すことが構文上の要件で、その位置が埋まってはじめて文が閉じます。数値と結びつきやすいのは偶然ではなく、閾値をまたいだという報告のために用意された語形だからです。どこまで来たのかを言わない限り、この動詞は何も伝えません。

用法はニ格だけではありません。「目的を達する」「所期の成果を達する」のように、達成される事柄をヲ格に据える型もあります。名詞形の「達し」は、上から下へ伝えられる通知そのものを指しました。いずれの場合も、外側に基準か宛先が置かれているという条件は動きません。た・っ・す・るの四拍——促音も一拍と数えます——のうち、意味の重心は明らかに前半の漢語側にあり、そこに「到る」という空間的な含意が畳み込まれています。

ところが性愛を描く文章では、同じ動詞がニ格を欠いたまま置かれます。「達した」の三文字だけで文が完結し、到達点は書かれない。格支配を持つ動詞がその格を空けたまま自然に読まれる例は、日本語のなかでもそう多くありません。目的地を伏せたまま到着だけを報告する、奇妙な用法がここに成立しました。基準を外に持たない「達する」は、この語の歴史のなかではかなり新しい使われ方です。

記述精神医学は、まさにこの種の空白と長く付き合ってきた分野です。症状を記述するとき、臨床家は連続的に変化する状態のどこかに線を引かなければなりません。抑うつの尺度にカットオフ値を設定する操作は、本来なだらかな量に境界を持ち込む作業であり、境界の位置は理論ではなく運用によって決まります。障害を種類として立てるカテゴリーモデルと、程度として測る次元モデルの対立が繰り返し議論されてきたのも、この線引きに原理的な根拠が乏しいからです。同じ尺度でも、研究の目的が変われば線の位置は動きます。閾値は発見されるのではなく、置かれます。

痛みの強さを測る場面では、いまも本人の申告に頼るほかありません。まったく痛くない状態を零、考えうる最悪の痛みを十として、自分がいまどこにいるかを答えてもらう尺度が臨床で広く使われています。一本の線分の上に印をつけてもらう方式もあります。外から検証する手立てがないまま、数値だけが記録に残ります。ここで患者が報告しているのは、まさに到達点の書かれない「達した」です。基準は本人の内側にしかなく、しかもその基準は日によって動きます。それでも数値は集計され、治療の効果の判定に使われます。閾値をまたいだという報告だけを受け取って先へ進むという手続きを、医療の側もとうに引き受けているわけです。

ニ格の空白は、話者の語彙が足りないことを示しているのではありません。名指せる到達点が存在しないという事情を、構文の穴の形で示す方法です。数値の世界から来た動詞が、数値の通用しない場所へ迷い込んだとき、格助詞のひとつを置き去りにしました。その置き去りのぶんだけ、この語はかえって正確になっています。言えないことを言えないまま置いておく方法を、日本語は格助詞の欠落という形で持っていました。

文: hakadoru.ai 編集部

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