嬲る

【なぶる】動詞

同義語

同品詞の類義語

弄ぶ文芸的
苛める文芸的
責める

類義句

同品詞の慣用的言い換え

愛玩する文芸的
淫らな遊戯文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

甘美な調教のように文芸的
官能の渦に巻き込むように文芸的

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

執拗に

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

焦らすcolloquial
快楽を与える

体言的言い換え

用言を体言に変換

快楽の供物文芸的
欲望の玩具文芸的

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

淫らに戯れる文芸的
官能の虜にする文芸的

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三人が並んだ字——図式が落とす向き

人の形を二つ並べて作られた漢字が、いくつもあります。同じ向きにそろえて並べれば「从」で、あとから付き従うことを表します。横に寄せて並べれば「比」になり、並べて較べる意になる。背中合わせに置けば「北」で、そむくという意味を担っていたのが、のちに方角の名として使われるようになったと説明されてきました。部品はどれも同じ二人です。それでも意味が分かれるのは、二人がどちらを向いているかまで字形に書き込まれているからです。人を並べて関係を書くという方法は、この向きを刻めるかどうかに全体がかかっています。逆にいえば、部品を横一列に置いてしまえば、向きの情報はそこで失われます。並んだ人影は、誰が誰へ手を伸ばしているのかを語らないまま、字として固定されます。

「嬲」という字は、男・女・男を横に並べて作られています。対になる「嫐」は女・男・女の配置で、どちらも「なぶる」と読まれます。歌舞伎十八番のひとつに『嫐』という演目があり、この字が芸能の側にも居場所を持ってきたことが分かります。人の配置がそのまま字の形になっている例は、漢字全体を見渡してもごく少数です。ただし、この二字の字形は、誰が誰に対して何をしているかを示しません。三つの部品が並んでいるだけで、力の向きまでは書かれていないのです。動詞としての「嬲る」は明確な向きを持ち、なぶる側となぶられる側は交換できません。字形が示す対称と、語義が要求する非対称——この語は、その落差の上に立っています。図式は関係を写し取っているように見えて、関係の最も重要な成分を落としてしまうことがあります。

『嫐』という演目名は「うわなり」と読まれます。うわなりうちは、先妻の側が後妻の家へ押しかけるという中世から近世初期の風習で、日を予告したうえで行われる形式を伴ったと伝えられます。私闘というより、制度が用意した手続きに近いものでした。ここでも配置は三人です。先妻、後妻、そして双方を同時に配偶者として抱える立場——字が写しているのは個人の悪意ではなく、婚姻の制度が三人を同じ場に立たせてしまう構造のほうです。

訓のほうにも幅があります。なぶるという和語には、からかう、もてあそぶ、いたぶる、といった語釈が並び、表記も一つに定まりません。手でもてあそぶ側から「弄る」の字が当てられることもあれば、三人の並んだこの字が使われることもある。遊戯と加害が同じ一語のなかに同居していて、どちらの成分が前へ出るかは、そのつどの場面が決めます。ここでも決定権は語の側になく、文脈の側にあります。分類の作業がこの語を扱いかねるのは、そのためでもあります。行為の種類として項目を立てれば、遊びの側と害の側は別の欄へ振り分けざるをえません。同じ手つき、同じ場面が、受け取る側の状態しだいで隣の欄へ移ってしまう。その移動は、項目の側からは見えないのです。

性科学が学問としての輪郭を得たのは十九世紀後半から二十世紀にかけてで、その中心的な作業のひとつが分類でした。行為の種類、指向、頻度を項目に分け、質問紙や面接によって数え上げていきます。図式へ置き換えれば集団間の比較が可能になりますが、置き換えの過程で落ちるものがあります。関係のなかの力の向き、同意の有無、そのときの文脈といった成分は、項目の設計に含まれていなければ集計表に現れません。調査の設計そのものが数字を動かすことも早くから知られていました。同じ項目でも、面接で尋ねるか封をした用紙に書かせるかで申告の頻度は変わります。恥や罰の予期が回答を削り、匿名性の担保がその一部を戻します。

自己申告の限界は、測定の精度だけの問題では終わりません。回答者は、質問文が用意した枠組みに合わせて自分の経験を整理し直してしまいます。イアン・ハッキングは、人を分類する概念が分類された当人の自己理解を変え、その変化がまた分類のほうを作り替えていく循環を指摘し、これをループ効果と呼びました。性をめぐる分類は、この循環が特に強く働く領域だと考えられています。

三つの部品が並んだ字を眺めていると、分類という作業の性質が形として見えてきます。並んでいるだけの部品は、誰が主語かを教えません。読む側が文脈から向きを補って、はじめて意味が確定します。字の造形が読者に要求するその補いは、統計表を読む者の目が無意識のうちに行っている補いと、手続きとしては同じものです。数えられたものの外側には、数えられなかった向きが常に残っています。

文: hakadoru.ai 編集部

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