怪しい

【あやしい】形容詞

同義語

同品詞の類義語

淫靡な文芸的
猥らな

類義句

同品詞の慣用的言い換え

いかがわしい
淫らな文芸的

直喩変換

「Xのような」「Xみたいに」形式の直喩

蜜のように甘い文芸的
官能小説のよう

副詞的言い換え

情態副詞・形容詞の副詞的変換

蕩けるように文芸的
火照るように

動詞的言い換え

形容詞・副詞を動詞句に変換

熱くさせる
官能的に踊る文芸的

体言的言い換え

用言を体言に変換

官能の極み文芸的
性欲の渦

婉曲・強調変換

ニュアンスの増減(婉曲化・強調化)

淫美文芸的
恍惚の境地文芸的

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覆いの厚みを測る——「怪」と「妖」に分かれた一語

同じ「あやしい」という読みに、二つの漢字が当てられてきました。不審や疑念に傾くときは「怪」、人を惹きつける不穏さに傾くときは「妖」を使う、という書き分けです。ただし常用漢字表に載る「妖」の読みは音の「ヨウ」だけで、「あやしい」という訓は表外にあります。公用文や新聞の表記では選べず、この書き分けは文学と広告の側にだけ残りました。読者が「妖しい」の三字を見たとき、規範の外にある綴りを書き手が意図して選んだという感触——正しくない字を当てた気配が、意味の一部として働いています。

古語の「あやし」は、いまよりも広い範囲を覆っていました。不審の意のほかに、粗末である、身分が低いという用法があり、平安の物語では貧しい住まいや身なりを指して使われます。シク活用の形容詞で、あやしく、あやしき、と活用しました。神秘と卑賎が一つの語に同居していたわけですが、どちらも日常の枠に収まらないという一点で結ばれます。あやしは三拍、現代語のあやしいは四拍で、末尾に一拍を足しただけの形が、この幅の広さをそのまま引き継いでいます。

現代語の用法にも、この幅は残っています。人を指せば不審者の含みになり、雲行きに使えば天候の見通しが立たないことを表し、腕前に使えば当てにならないという評価になります。共通しているのは、対象が悪いという指摘ではなく、判断に必要な情報がこちらに届いていないという申告です。見えているのに読み取れない、あるいは見えていないから読み取れない。どちらの場合も、不足しているのは対象の側ではなく、対象とこちらのあいだの情報量です。

絵の側でも、同じ幅が扱われてきました。平安以来の絵巻には、金や胡粉を刷いた横長の霞を場面のあいだへ差し挟む技法があります。すやり霞と呼ばれるこの帯は、遠近を示すためというより、見せる範囲を区切るために引かれます。霞の下で何が続いているのかは描かれず、見る者は前後の場面から補うほかありません。物語絵の名高い作例で、屋根を取り払った室内が真上から見下ろされているのも、同じ発想の裏返しです。見せると決めた面だけを開き、残りは伏せておく。

覆いの厚みは、光の側でも調整されてきました。夜の場面を描いた絵は、闇を黒く塗り込めるよりも、灯の届く範囲を狭く取ることで暗さを示します。届かなかった部分は手つかずのまま残され、そこに何があるかは見る者が決めます。目を吸い寄せるのは照らされた中心ではなく、明るさが尽きかけるあたり——光と闇が入れ替わる帯のほうです。輪郭が溶けかかった箇所に人が目を留める点は、写真術が広まったあとの絵画でも変わりませんでした。

言い換えれば、あやしさは対象そのものの属性ではなく、対象と見る者のあいだに置かれた覆いの厚みです。厚すぎれば何も起こらず、薄すぎれば疑いも魅惑も立ち上がりません。絵師が霞を引き、灯の届く範囲を絞ったのは、その厚みを測っていたからでしょう。文章でも事情は同じで、書き手が手に握っているのは肌ではなく布のほうです。どちらの字を当てるかという選択も、厚みをどちらへ寄せるかの申告になっています。

文: hakadoru.ai 編集部

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